先日、日本FPアドバイザーズ協会のメンバーとして、アメリカのNAPFA(全米個人ファイナンシャル・アドバイザー協会)が主催するカンファレンスに参加してきました。場所はミネソタ州ミネアポリス。5月上旬の開催でした。
現地で見たもの、感じたこと、そして「日本とここが違うな」と思ったことを、写真とともにざっくりお伝えしていきます。
ミネアポリスは、アメリカ北部ミネソタ州の都市です。冬はマイナス20度を下回ることもあるそうで、街のあちこちに屋内で建物をつなぐ「スカイウェイ」という通路が張り巡らされていました。
個人的には、この「内側でつながる」インフラがとても印象的でした。外がどれだけ厳しくても、中でしっかり動き続けられる──そんなアメリカのプロフェッショナルの気質を象徴しているような気がして。
5月6日から9日の4日間、ヒルトン・ミネアポリスを会場に開催されたカンファレンスには、全米各地からFPが集まっていました。
1. アメリカFPA協会とは?今回の訪問の経緯
NAPFAは1983年に設立されたFPの職能団体で、日本でいうと「有料相談FPの協会」に近いイメージです。アメリカには約30万人の金融アドバイザーがいますが、NAPFAの正会員はそのうち約4,500人だけ。全体の1.5%ほどです。
なぜそんなに少ないかというと、入会基準がとても厳しいからです。投資だけでなく、税務・相続・保険・老後設計まで含めた「包括的なプラン」を作れること、同業者のチェックをクリアすること、CFP資格の保有に加えて2年ごと60時間以上の継続学習──これらをすべて満たした人だけが正会員になれます。
日本ではあまり知られていませんが、アメリカではFPは医師や弁護士と並ぶ社会的地位の高い専門職として認識されています。
今回は「日本のFP業界を発展させるために、世界の最先端を見にいく。現地FP事務所訪問にて意見交換する」という目的で渡米してきました。
2. カンファレンスの様子
会場に足を踏み入れて最初に驚いたのは、休憩時間の風景です。
日本だと名刺交換して「よろしくお願いします」という感じになりますが、ここでは違いました。コーヒーを手にしながら「ねえ、CRMどれ使ってる?」「うちの顧客対応のフローをこう変えたんだけど」という実務の話が、廊下でもランチでもどこでも飛び交っていて。
展示コーナーにも、CRMツールやAI系のサービスプロバイダーが多数出展していて、日本のFP業界との違いを感じました。
3. 印象に残ったセッション・トピック
今年のテーマは「Next Level Fiduciary」
「Fiduciary(フィデューシャリー)」という言葉、日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、「顧客の利益を最優先に行動する義務を持つ専門家」というような意味です。アメリカでは、このフィデューシャリー基準を持つFPと、そうでないアドバイザーとで、明確に区別されています。
基調講演①:「5年後、あなたの事務所は生き残っていますか?」
最初の基調講演は、Brooklyn Fiという事務所を立ち上げたAJ・エアーズさんでした。
開口一番、「5年後、あなたの事務所はまだ存在していますか?」という問いかけから始まりました。脅しではなく、「だから今から準備しよう」という温かいメッセージとして。
印象に残ったのは、AIについての話です。「AIはFPの仕事を奪いません。AIはFPを、本当の仕事に連れ戻してくれるものです」という言葉がありました。
面談後の議事録作成、お礼メールの下書き、次回タスクの登録──こういった事務作業をAIに任せることで、アドバイザーが「顧客と向き合う時間」をもっと持てるようになる。そういう使い方の話でした。
AIは「事務作業」を引き受けてくれる存在
日本でもAIの話はよく出るようになりましたが、現地で聞いた話は少し次元が違いました。
ある事務所では、顧客との面談が終わった直後に、AIが自動で3つのことをやってくれるそうです。1つ目はお礼メールの下書き、2つ目は面談の議事録、3つ目はCRM(顧客管理システム)への次タスクの登録。いずれも、担当アドバイザーの文体を学習したうえで生成されるので、本人が書いたような仕上がりになると。
面談後の1〜2時間の事務作業がなくなる、ということは、その分だけ次の顧客のことを考える時間が増えるということです。AIを使うほど、人間らしい仕事が残る、というのが面白い逆説だなと感じました。
「誰が担当しても、同じ品質で」
もうひとつ「なるほど」と思ったのが、「標準化」の話です。
成長している事務所に共通しているのは、「誰が担当しても、顧客が受け取るサービスの質が変わらない」仕組みを持っていることだと、あるセッションで語られていました。
新規顧客の対応フローを「17のステップ」に分解してCRMに組み込む、という取り組みを紹介していた事務所がありました。問い合わせへの返信、予約確認、前日リマインダー、当日の準備チェックリスト……細かい手順を、担当者の記憶や気分に頼らず自動でこなしていく仕組みです。
「ヒューマンエラーは、悪意からではなく忘却と多忙から生まれる。だから人間だけに任せない」という言葉が印象的でした。
「売れる事務所」を作ることが、顧客への責任
少し驚いた話もありました。運用資産残高が110億ドル(約1.7兆円)規模に成長し、2021年に事務所を売却したアドバイザーの方の事例です。
「売却」と聞くと「顧客を手放した?」と感じるかもしれません。私も最初そう思いました。でも、話を聞いていてニュアンスが変わりました。
「自分が突然いなくなっても顧客が困らないようにするには、組織として動き続けられる事務所でなければならない。それを追求した結果、売却できる状態になっていた」という話でした。
「売れる事務所」というのは、特定の個人に依存せず、プロセスが整っていて、次の世代のFPが育っている事務所のこと。そしてそれは、顧客にとって一番安心できる事務所でもある、と。目から鱗でした。
4. アメリカと日本のFP業界、何が違うと感じたか — 現地事務所訪問
カンファレンス期間中に、ミネアポリスの独立系事務所「White Oaks Wealth Advisors」を訪問する機会がありました。100%女性オーナーの事務所です。
代表の方との話で印象に残ったのが、「ハブとしてのFP」という考え方です。
White Oaksでは、資産運用だけでなく、相続・税務・事業承継など複雑な課題に対して、弁護士や税理士を組み合わせて対応しています。FPが「司令塔」として顧客の課題全体を把握し、必要な専門家を選んでチームを作る、というイメージです。ここは日本にはない体制だと思います。「あなたのことを一番よく理解しているのは私たちだから、最適なチームを組みます」という立ち位置ですね。
また日本では独立系FPの競合は保険会社や金融機関ですが、そこはアメリカでも変わらないとのこと。でも、圧倒的な独立系FPの差別化ポイントは、担当者が変わらないこと。長期にわたる「人生のパートナー」として、財務を超えたメンタルまでサポートすること。
そしてなんと、この事務所は2人のアドバイザー+事務、ポートフォリオマネージャーの合計6人で、顧客口座数は約222口座です。その大半(約93%)がハイネットワース(富裕層)個人顧客で構成されているため、1口座あたりの預かり平均残高が高く、少人数で効率的な運営を行っています。同社の総預かり資産(AUM)は約6億1,831万円程度。日本ではここまでの独立系事務所は存在しておらず、アメリカとの差を感じました。
5. 今回の視察を、これからの活動にどう活かすか
最後に、私個人の感想をひとことまとめると。
アメリカのFPがすごいのは、AIを使っていることでも、仕組みが整っていることでも、事務所が大きいことでもなくて──「顧客の人生に、ここまで真剣に向き合うのか」という姿勢だと思いました。ビジネスとして付き合ってはいるんだけど、もっと内に入るというか、内面、深層まで潜っていって寄り添って感じ取っていく。
テクノロジーも標準化も、突き詰めると「顧客ともっとちゃんと向き合いたいから」という動機に行き着く。そこは日本もアメリカも、変わらないんじゃないかなと。
日本FPアドバイザーズ協会として、こうした世界のFPコミュニティとつながりながら学び続けることが、私たちのサービスの質につながると信じています。長いレポートを読んでくださって、ありがとうございました。